こそだてドクターのおはなし

【麻しん・はしか】ワワクチンの副反応が心配なパパ・ママへ。小児科医と一緒に考える「リスクの比較」|予防、健診の知識

小児一般、小児救急・野田 慶太先生

掲載日:2026年7月17日

ワクチン接種を考えているパパ・ママへ

2026年に入り、国内で麻疹(はしか)の感染報告が増えています。ニュースを見て「うちの子のワクチン、まだ受けさせていないけれど大丈夫かな」「副反応が心配で踏み切れない」と感じている方も多いのではないでしょうか。 大切な我が子の体に人工物を入れることにどこか漠然とした不安を感じるのは、決して大げさなことでも間違ったことでもありません。スマートフォンで「麻疹 ワクチン 副反応」と検索したときに目に入る言葉に胸がざわついた経験がある方もいると思います。我が子の体に何かを入れることに慎重になるのは、親としてごく当然のことだと思います。 いま日本では麻疹(はしか)ワクチンの接種率低下が課題になっています。今回は小児科医として「ワクチンにもリスクはあるのではないか」という疑問に対してしっかりと向き合あった上で「ワクチンの副反応のリスク」と「実際に麻疹に感染した場合のリスク」をしっかりと理解できるように、公的機関のデータをもとに一緒に考えてみたいと思います。

なぜいま麻疹(はしか)が話題になっているのか

厚生労働省や感染症の専門機関によると、2026年は国内での麻疹報告数がすでに増加傾向にあり、10〜20代を中心に、ワクチン接種が2回完了していない世代での発症が目立っています。麻疹は空気感染するため、マスクや手洗いだけでは防ぐことができず、ワクチン接種が唯一の確実な予防手段とされています。 こうした状況の中で、「打つべきかどうか」を改めて考えるご家庭が増えているのは自然なことです。だからこそ、正確な情報をもとに判断していただきたいと思います。

麻疹は「ただの風邪」ではありません

まず知っておいていただきたいのは、麻疹という感染症の感染力の強さです。厚生労働省によると、麻疹ウイルスは空気感染・飛沫感染・接触感染のいずれの経路でも人から人へ広がり、感染力は非常に強いとされています。免疫を持っていない人が感染すると、ほぼ100%の確率で発症します。 「昔はみんなかかっていた病気」というイメージがあるかもしれません。しかし、麻疹は感染すると10日ほどの潜伏期間を経て発熱や咳などの症状が現れ、その後39度以上の高熱と全身の発疹が出現する決して軽くない病気です。その一方で、特別な治療薬はなく治療は対症療法が中心になります。麻疹の最大の問題は、その合併症の重さにあります。

データで見る「実際に感染した場合」のリスク

厚生労働省の公式情報によれば、麻疹に感染した場合、次のようなリスクが報告されています。 ・肺炎・中耳炎:麻疹でとくに起こりやすい合併症として知られています ・脳炎:患者1,000人に1人の割合で発症するとされ、意識障害やけいれんを伴い、後遺症が残ることもあります ・死亡:先進国であっても1,000人に1人程度が命を落とすとされています ・SSPE(亜急性硬化性全脳炎):感染から数年〜十数年後に発症することがある、極めてまれ(10万人に1人程度)ですが致死率の高い病気です。とくに2歳未満で感染するとリスクが上がるとされています これらは、特効薬のない麻疹ウイルスが実際に体に入ったときに起こりうる、合併症・重症化のリスクです。

もちろんワクチンもリスクがゼロではありません

ここで、医師として正直にお伝えしておきたいことがあります。ワクチンは絶対に安全というわけではなく、副反応というリスクが確かに存在します。 MR(麻疹風疹混合)ワクチン接種後によくみられる症状は次の通りです。 ・発熱(37.5〜38.5度以上):接種後5〜14日ごろに、約20%程度でみられます。多くは1〜3日で自然に解熱します ・発疹:約10%程度でみられますが、数日で自然に消えます ・注射部位の赤み・腫れ:一過性で、通常数日中に消失します そして、ごくまれにではありますが、以下のような重い副反応も報告されています。 ・アナフィラキシー(全身の急速かつ激しいアレルギー症状):接種後30分以内に起こることがあり、頻度は0.1%未満とされています ・血小板減少性紫斑病:おおむね100万接種あたり1人程度 ・脳炎・脳症:おおむね100万接種あたり1人以下 ・急性散在性脳脊髄炎(ADEM / 免疫系が自身の脳や脊髄を誤って攻撃し、神経の周囲を覆う髄鞘に炎症を起こす疾患):頻度不明ながら報告例があります ただし、これらの頻度は「0.1%未満」、つまり1,000人に1人よりもずっと低いとされ、しかもその中にはワクチンとの因果関係がはっきりしないケースも含まれています。それでも、「絶対に何も起きない」とは言い切れません。

天秤にかけてみると見えてくること

では、この2つのリスクを、天秤にかけてみましょう。 ・麻疹に感染して脳炎になる確率:およそ1,000人に1人 ・ワクチンで何らかの重い副反応が起こる確率:1,000人に1人未満(そのほとんどはワクチンとの因果関係が確定していないケースを含む) さらに感染の場合は、これに加えて肺炎・中耳炎という頻度の高い合併症、そして1,000人に1人という死亡リスクも出てきます。一方でワクチンの重い副反応は、その大部分が「因果関係が確定していない」ケースを含んでもなお、この水準にとどまっています。 天秤の片方には「ごくまれな副反応のリスク」、もう片方には「感染すればほぼ確実に高熱・発疹に苦しみ、一定の確率で肺炎・中耳炎・脳炎・死亡という重い代償を伴う病気そのもののリスク」が乗っています。確かに、ワクチンはリスクがゼロではありません。しかし、天秤で比べたとき、小児科医が圧倒的にワクチン接種を勧める理由が、ここにあります。接種を見送るという選択は、より重く、より確実なリスクにさらされ続けることを意味してしまうのです。

なぜ2回接種なのか

日本の定期接種では、MRワクチンを「1歳になったらすぐ(第1期)」と「小学校入学前の1年間(第2期)」の計2回受けることになっています。厚生労働省によれば、1回の接種で獲得できる免疫は約95%程度とされており、2回接種することで多くの人がより確実な免疫を得られる仕組みです。2回とも受けることで、発症そのものを防ぐだけでなく、万が一感染しても症状を軽くする効果が期待できます。 麻疹が最も重症化しやすいのは、免疫がまだ未熟な乳幼児期です。だからこそ、1歳の誕生日を迎えたらできるだけ早く受けることが勧められています。

最後に

ネット上には、不安をあおる断片的な情報があふれています。しかし医療の現場にいる私たち小児科医は、麻疹の怖さを知っているからこそ、自分の子どもにも当然このワクチンを受けさせています。 副反応への不安から立ち止まっているその一歩は、決して間違った感覚ではありません。ただ、冷静になって事実を並べて比べてみると、その一歩を踏み出すことが、お子さんを本当の脅威から守るための、確かな選択であることが見えてきます。1歳の誕生日を迎えたら、ぜひ近くの小児科に相談してみてください。

参考:

・東京都医師会|注意!麻しんの報告数が増えています 〜麻しんを正しく知って予防しよう〜 https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/press_conference/application/pdf/20260310-3.pdf ・厚生労働省|予防接種・ワクチン情報|MRワクチン https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/mr/index.html ・KNOW・VPD!|オトナのVPD|麻しん(はしか) https://otona.know-vpd.jp/vpd/hashika.html ・恩賜財団済生会|全国で急増する「はしか」。感染力の強さと重症化リスクを知って正しく予防しよう! https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/measles/ ・川崎医科大学 総合医療センター|麻疹(はしか)は重い病気です~ワクチンでの予防が何より大切 https://g.kawasaki-m.ac.jp/data/1612/125/