【脳死肝移植】尊い善意を「お子さんの未来」へつなぐ希望|みんなで支える、こどもの未来
小児一般、小児救急・野田 慶太先生
脳死肝移植(のうしかんいしょく)ってご存じですか?
お子さんの肝臓の病気が進行し、命を救うために「移植」という選択肢が示されたとき、日本では多くの場合、ご家族から肝臓の一部を分ける「生体肝移植」が検討されます。しかし、もうひとつの大切な選択肢として「脳死肝移植(のうしかんいしょく)」があります。 非常にデリケートで容易なテーマではありませんが、お子さんの未来をつなぐこの医療の仕組みについて、分かりやすく解説します。
「脳死肝移植」とは?
脳死肝移植は、不慮の事故や病気によって、回復の見込みがない「脳死」と判定された方から、善意による臓器提供(ドナー)を受けて行われる移植手術です。 日本では2010年7月の改正臓器移植法施行により、ご本人の意思が不明でもご家族の同意があれば15歳未満のお子さんからの提供も可能になりました。これにより、小さな体のお子さんに、より体格の合ったサイズの肝臓を移植できる可能性が広がりました。
生体肝移植との違いは?
生体肝移植は「あらかじめ決めた日」に手術を行いますが、脳死肝移植はドナーが現れた際に、日本臓器移植ネットワークに登録している待機者の中から、緊急度や適合性に基づいて選ばれたお子さんに連絡が入ります。 『肝臓をそのまま移植できる』 生体肝移植が肝臓の一部を分けるのに対し、脳死移植では小さなお子さんの場合は小児ドナーから肝臓全体(全肝移植)を、大きなお子さんの場合は成人ドナーから肝臓の一部を受けることが多く、生体移植と比べて十分な肝臓の大きさを確保しやすいメリットがあります。 『ドナーを分ける分割移植』 一人の成人ドナーから提供された肝臓を二つに分け、一方はお子さんに、もう一方は大人の方に移植する分割移植(スプリット肝移植)が行われることもあります。これにより、一人のドナーから二人の命を救うことができます。
公平なルールで決まる優先順位
移植を受ける順番は、誰かの思いでに決めるのではなく、客観的な数値に基づいて決まります。 緊急度が高いほど優先され、小児ではPELDスコア(Pediatric End-stage Liver Disease)という点数を用います。黄疸の数値(ビリルビン)や血の固まりにくさ(PT-INR)、血清アルブミン値、成長の遅れなどを点数化し、重症度の高いお子さんに優先的にバトンが渡る仕組みになっています。
日本の現状と課題
日本での小児脳死肝移植の件数は、年間10〜20例程度とまだ多くはありません。一方、生体肝移植は年間約300〜400例行われており、日本では生体移植が主流となっています。待機期間は個々の状況により異なりますが、緊急度の高いお子さんでも数ヶ月から1年以上待つこともあります。
移植の先にあるもの
脳死移植を受けた後も、生体移植と同様に、拒絶反応を防ぐための免疫抑制薬を飲み続ける必要があります。しかし、手術後の経過が順調であれば、お子さんは他の子と同じように学校へ通い、運動をし、他の子と同じような生活を送ることができます。提供された方とそのご家族の想いを胸に、新しい人生を歩み出すことができるのです。
最後に
脳死移植という選択肢は、尊い犠牲と善意の上に成り立つものです。移植を待つご家族にとって、それは「誰かの死を待つ」ことではなく、「もし奇跡的にバトンが回ってきたなら、その命を全力で受け継ぎたい」と願う、切実な希望の形です。 生体移植と脳死移植、それぞれにメリットとデメリットがあります。