季節性感染症【RSウイルス感染症】
新生児、小児一般・北瀬悠磨先生
RSウイルス感染症について
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、乳児にとって重要な呼吸器感染症で、特に生後6か月未満の赤ちゃんや早産児、心疾患や慢性肺疾患を持つお子さんでは重症化しやすく、冬季だけでなく年間を通じて注意が必要です。
流行の時期
従来は10月〜翌3月の冬季が流行期とされてきましたが、最近ではオフシーズン(春や夏)にも流行が見られるようになっています。たとえば、2021–2022年には流行が5月に始まり7月にピーク、翌1月まで続いた例があり、2022–2023年も6月以降流行が観察されました 。これはCOVID-19後の生活様式の変化などが影響していると考えられており、近年は「いつでも注意が必要」と言えます。
症状と診断
初期症状は鼻水や咳、軽度の発熱と風邪に症状が似ていますが、気管支まで感染が広がると喘鳴・呼吸困難・哺乳不良・無呼吸といった重症症状が現れます。診断には迅速抗原検査やPCRが用いられます。
治療とフォロー
基本的に対症療法が中心で、酸素投与、吸引、補液などの支持療法が主体です。抗ウイルス薬は通常使用されません。重症例では入院しての集中治療が必要です。
予防対策
重症化リスクのある乳児には、RSウイルスに対するモノクローナル抗体が予防に用いられています。代表的なのは、パリビズマブ(Palivizumab:商品名シナジス)で、月1回の筋肉内注射が必要です。さらに、ニルセビマブ(Nirsevimab:商品名ベイフォータス)は、長時間作用型のモノクローナル抗体で、生後最初のRSウイルス流行シーズンに対して1回の筋注で約5か月間の予防効果が期待されます。2024年に日本でも承認され、2025年シーズンに向けて導入が進められています。また、妊婦に対するRSウイルスワクチン(RSVpreF:商品名アブリスボ)も新たな予防法として登場しました。これは妊娠24〜36週の妊婦に接種され、胎盤を通じて移行抗体が胎児に供給されることで、生後6か月までのRSウイルス感染予防効果が期待されます。米国で2023年に承認され、日本でも導入が検討されています。いずれの製剤も、すべての乳児や妊婦が対象(保険適用)になるわけではないため、適応については主治医にご相談ください。
日常の感染予防
流行時期にかかわらず、乳幼児を守る基本は手洗い、マスク、家庭内での健康管理です。特に兄弟が保育園や学校からウイルスを持ち込むリスクもあり、感染予防の意識が重要です 。
まとめ
•流行は例年の冬に限らず春〜夏にも見られるため、季節を問わず注意が必要 •高リスク乳児(早産/心肺疾患など)は、パリビズマブや新たな長作用型抗体・ベイフォータスによる予防が推奨される •日常的な感染予防と、体調変化が見られた場合の早めの受診が重症化を防ぎます
最後に
RSウイルスは多くの児が一度は感染する一般的なウイルスですが、重症化のリスクを理解し、適切な予防とケアを行うことで、多くのお子さんが元気に回復しています。気になる点があれば、小児科やかかりつけ医にご相談ください。